ぼく、石原って言います、作家やってます。

昔、むかし、そのまた昔のこと。
渋谷のそれもハチ公前で待ち合わせなんてことをしちゃったときの出来事です。

15時待ち合わせのところ30分も前に到着。所在なげにハチ公の裏に座って本を読んでいました。その時、隣にやけに彩度の高いオレンジ色のトレーナーを着たおじさんが座っているのはわかっていました。そして自分の方をちら見している気配も感じていました。

妙な雰囲気、高まる緊張感。

「本好きなの?」
「。。。。。。」

なんて応えようかな、絡んできたら論破してやろうかな、それとも笑っていなすか。

「本好きなの?」
「はい」
「僕ね、石原って言います、作家やってます」
「へぇー」
「これがね、作品、愛の極致」
「はぁ」
「これからね、雑誌の企画でシャブやってた女子高生と対談するの、ほら、これ、僕、本人でしょ」と、日刊ゲンダイの記事のコピーを見せてくれる。

「ぼく、昔やくざやっててね、今は足を洗って作家をやってるんだよね」
「そうなんですか」

ゲンダイのコピーの略歴を見ると「元組長、服役20年云々」と書いてある。

「柏にすんでるんだけどね、こうやって東京に出てくるときは何時間か早めに出てきて、街を見てるの」
「なるほど」
「今日はね、これから対談する女の子に僕とお揃いのトレーナーをプレゼントに持ってきたの、ほら、これ。スーツとかね着ていくと子供だからおっかながっちゃって、心をオープンにしてくれないから」
「気を遣いますね」
「そう」
「本、愛の極致ってタイトルでしたけど、テーマはなんなんですか?」
「愛だよ、獄中で文通して、獄中結婚するの」
「ストイックですねー」
「そう」
「原稿は原稿用紙に書いてるんですか?」
「そう、刑務所入ってたからね、パソコン覚えられなくて、いまは一週間に何度か先生に教えてもらってメールはねできるようになったけど」
「大変ですね」
「考える早さに手が付いていかないんだよね、いらいらしちゃう」
「あー、わかります、それ」
「そーなんだよ、携帯はね、ほら、こうやってメールできるんだけどさ」
「おぉっー、字がおっきいですね」
「そう、ほら、これ、こんど女の子の編集者を焼鳥屋に連れて行かなくちゃならなくてさ」
「ありゃ、面倒ですね」
「まぁ、ほら、色々とね付き合いはね」
「ですよね」

ここで携帯が鳴り、待ち合わせた人と打ち合わせがあったのでさよならしましたが、名刺交換までしてしまいました。

「あのさ、連絡くださいよ、近いうちに。僕もしますから」
「はい」

ということで、そのあと何回かお会いし、その美味しいという焼き鳥屋に連れて行ってもらったり、全国の刑務所の食事について教えていただいたりしました。石原さん曰く、カレーは府中、何千人も入っているから大量につくるカレーは美味いとか、パンなら長野、ベーカリーがあるので、朝は焼きたてのパンを食べられるとか、そういう知識がつきました。

石原伸司さん、作家の方でしたが、一体どういう巡り合わせだったのだろう??

 

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