わたしを殺して、さもなくば希望を返して。

イタリアにいた時、ボローニャという街に住んでおりました。

ここにあるボローニャ大学というのはヨーロッパ最古の大学と言われていて、そしてボローニャはご飯の美味しいイタリアでももっとも美食の街としても知られています。ということはここで七年も暮らしているととても太ります。。。

ボローニャで担当していたクライアントはこの街のメインストリートに名前がついてしまうほどの名家。オペラが開催される会場、テアトロ・コムナーレにはこの家のために専用のボックス席が先祖代々より予約されていました。だから、好きなときに行っていいよ、と、言われていたんです。なので仕事が終わるとしょっちゅう行きました。

本番でなくとも入れるので、オーケストラの各パートだけの練習を聴きに行ったりと。この、本番でないときの演奏がとてもいいんです。みんなジーパンにサンダルとかのカジュアルな装いで、足を伸ばして椅子に持たれて弾いていて、とてもリラックスしたよい音楽が楽しめました。

で、清教徒というオペラです。

ベッリーニが作曲したこのオペラは今まで知らなかったし、聴く機会もありませんでした。だけど、リハを聴いて合唱のハーモーニーがきれいだなぁと思い、探したらこのDVDを見つけました。

プリマ・ドンナはアンナ・ネトレプコ。
2007年1月にN.Y.のメトロポリタン歌劇場で演じられたものです。観てみるとやっぱりネトレプコのステージプレゼンスはすごかった。

ネトレプコの役では、結婚を約束した愛する男が他の女と逃げてしまい(と信じている)、その悲しみで狂う、というシーンが1幕の終わりから2幕に架けてあります。だいたい時間にして30分とすこし、延々と狂い続け、歌い続けます。

最初、その突然の知らせを知ったネトレプコはシーン半ばで笑顔を見せ、「おっ、立ち直ったか」と思ったのも束の間、実は深い悲しみの淵で静かに狂気を進行させていたという。

そしていよいよ狂気もクライマックスに達したかと思った頃、カンタービレ・カバレッタの大アリア、シェーナ→カンタービレ→テンポ・ディ・メッツォ→カバレッタのカバレッタに当たる箇所になりますが、突然ステージにごろんと横になり、オーケストラピットに頭を落とし仰向けになって、狂乱のアリアを歌い続けます。

映像の中ではインターミッションでルネ・フレミング(アメリカを代表するオペラ歌手)がネトレプコにインタヴューしており、その狂乱の演出について尋ねていて、ネトレプコのアイデアで行われたものらしいと知りました。歌唱やこういうアイデアも含めて、訓練や勉強では身につけることのできない才能のある人だと感じました。

ただ、ネトレプコ、コロラトゥーラ(トリルみたいなやつのこと)はちょっと苦手みたいです。全幕イタリア語のオペラなんですが、口を縦に開けた母音をきれいに発音しようと意識的な頬の使い方が目立った気がします。

日本人がイタリア語を最初に勉強すると指摘されるのが母音の発音の際、口を縦に大きく開けるようにということなんです。日本語はどちらかというとあんまり口を開けなくても喋れちゃいますが、イタリア語は母音の発声の美しさが求められます。

芸術の国イタリアでは普段の生活の中でも美しさを要求されるんです。

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