【始発ちゃんは突然やってくる】
始発ちゃんから電話があったのは9月の7日でした。「明日画廊に居ますか?」みたいな感じだったと思います。その日はたまたま午前中がイベントに出ていて、午後は画廊で面会の約束があったのですが、とりあえずいることはいるので、夕方くらいならいいよ、という感じでした。
そして翌日、昨年会ったときより少しほっそりとした顔とサラサラとした長い髪をなびかせ、いくぶんお洒落な、というより余所行きの服装で始発ちゃんは現れました。
始発ちゃんはいつもの席に座り、自分はコーヒーをいつもより丁寧に淹れました。
始発ちゃんはカップを両手で持ってゆっくり飲みます。
お互いに本題はわかっているのだけど、どちらからも切り出しません。
「お前が先に言えよ」「わたしから言わせる気!」みたいな、告白できない両思いみたいな緊張の中、とりとめのない話をして互いに間が空くことを避けています。
それを察した画廊のスタッフが近所の美味しいケーキを買いに走ってくれました。
(個展当日にいらした方はご存知だと思いますが、始発ちゃんのとなりで手伝いをしていた者です)
ケーキも食べて、さて、いよいよ本題です。
まずは日程。カレンダーなどのグッズ類の制作を鑑みるのと、今年は冬コミにも出るので12月の最初の週がいいだろういうところまで話が進んでこの日はお開きとなりました。
いつもならこの後、飯でも食いに行くのですが、なにやら時間を気にしていた始発ちゃんはそそくさと駅へと向かいました。
自分は通りの角まで見送り、髪を揺らしながら颯爽と歩いていく始発ちゃんの後ろ姿を眺めていました。
(エメロンのCMみたいに髪が左右に揺れるな)
【Day 1 搬入展示】
画廊を開けて始発ちゃんが現れるのを待ちます。
荷物が到着するまで始発ちゃんはタイトルインデックスを書いたり、足りないものを買いに駅の方まで行ってました。
自分が画廊に到着したのは午後一時を回った頃。
二人(始発ちゃんとスタッフ)ともお腹が空いているだろうと、近所の和菓子屋でお団子とおにぎり唐揚げセットを買っていきました。
少しすると荷物も届きはじめ、九州の方からのお花やチョコレートも届きました。
お茶を淹れて少し二人に休んでもらってから、展示の相談を開始します。
季節で並べようか、色の種類で分けちゃう、シリーズごとにしようかな、など、思いつく組み合わせで絵を並べていきます。
んー、煮詰まってきたのでお茶休憩です。
自分は明日のお昼用のカレーを作ります。
そして始発ちゃんからグッドアイデアが出ました。
部屋の奥から出口まで、「朝」から「夜」にかけての時間順に絵を並べよう。ある所でこんなふうに一日が始まって、ある所ではこんなふうに終わっていくんだなぁと、愛おしく思えるでしょ。
展示のコンセプトが決まったら後は壁にかけていくだけです。
一つずつ丁寧に紐を調整し高さが揃うように、まっすぐ平行になるようにレーザーレベライザーも使って展示をしていきます。
「ふぅ〜、おわったね」と時計を見ると午後7時。昨年よりもぐっと早い時間です。
このあとはなぜか恒例のお鍋です。
今年は鶏鍋にしました。
鰹と干し椎茸の戻し汁を張って、鳥のつみれともも肉、長ネギ、きのこなどを入れていきます。
そして締めはうどんにしました。
お酒は日本酒、スタッフが何処かから手に入れてきた新潟の地酒です。
昨年は一升瓶でしたが、飲み過ぎ注意なので今年は五合瓶にしました。
いずれにしろ、あっという間に空になるのですが。
ほどなく一休みして後、散開。
明日遅刻するなよ〜、と、三々五々自宅へと戻ります。
【Day 2 個展初日】
この日は満枠です。
自分は8時に画廊に来て、昨日の展示のチェック(一晩経つと紐が伸びて傾いたりするので)、掃除などをしてからお茶を飲んで始発ちゃんの到着を待っていました。
そしたらすでにベンチに座って待っている人がいるではありませんか。
(外には防犯用にカメラがあるのですが、それで気がつきました)
えっー、あと、1時間半もあるのに大変、と、お茶を淹れて持っていき、並んで少しおしゃべりをしました。
東京の大分西の方からお越しの方で、昨年もいらしたとのことでした。
しばしお待ちくだされと話していると始発ちゃんが現れました。
毎年自分は受付を担当するので、開場してからは始発ちゃん任せです。
だんだんと増えていく差し入れやお土産を眺め、ぞくぞく届くお花などの受取や、お昼のカレーの支度(これも恒例)などをしてしていると、あっという間にこの日は終了です。
【Day 3 個展二日目】
準備には時間がかかるけれど、始まってしまえば、なにごともそれはかならず終わります。
そして今日もほぼ満枠。
当日に予約を入れてくださった方も居てありがたいことです。
自分は受付をして、お昼のカレーうどんの支度。
受付をしてると色んな人が声をかけてくれたりして楽しいのですが、一方でびっくりすることもあります。軽装で自転車の方が居たので近所かと思うと「板橋からです」「大田区からです」とか、岡山からとか、京都から深夜バスで来ました、大阪ですね、名古屋のおみやげです、荷物のバックパックが大きいので下でお預かりすると、いつもは船に乗ってるんですとか、みんな、一体、普段なにをしてるんですかっていう感じでした。
そして最終枠。うーん、なかなか、降りてこないなぁ、と覗きに行くとサイン待ちの行列でした。
始発ちゃんは一つ一つ丁寧に描くので、この日、お茶休憩は無しでお昼の後はそのままラストまで行っていただきました。
最終枠の方をお見送りすると、マッハで撤収です。
なにしろ来たときよりも差し入れにお花と荷物は格段に増えています。
また、今回、自分にもおみやげを頂きました。
岡山、大阪、京都、名古屋と山陽道、東海道と名物が並んでしまい、ありがたいことです。
そしてなぜか皆、また、来年ねと手を振っていくという、謎は深まるばかりです。