夕暮れ時のいつもの店に君を見つめると 今日の君はいつになくどこか淋しげで 時折見せる微笑みもいつもの不思議な冷たさと流れを持つ眼差しではなく それよりもっと淡く 心細げで 流れもせずに君と僕との間の空間に彷徨っている 口数が少ないのはいつもの通りでぼくも沈黙に君を見出すことには十分過ぎる程慣れ 切ってしまっていたし 肩に触れる細いウェーブのかかった髪もいつものようにふわりと君を包んでいるのに 俯き加減の君の瞳にはまるで何も映っていないみたいで 僕の切なさなんかよりもすっと穏やかな それでいてどうしようもなく虚ろな君の横で僕はさらにどうしようもなくただおろおろと 何があったのかも尋けずに君の瞳を追っている 雨足はよほど強くなって来たのかカウンターの横を通って奥のボックスに座る人はおよそ芯までずぶ濡れで まるで陽気な声が服を乾かしてくれると思っているみたいに悲しそうに笑ってコートを取る 今日も君はひどくきれいで言うまでも無く僕を溶かしていて それなのに君の瞳はふっと息を吹きかけただけで黄河よりも大きな河を造ってしまうくらいの涙を簡単に落としてしまえそうで いやそれよりもむしろ落とし切った涙の最後の一滴だけをかろうじて瞼の奥に留めておいて泣くことも永遠に忘れ去ってしまったかのようにも見えてきて思わず抱きしめてしまう僕の胸に包まれ乍らも僕を遠巻きに包み込んでしまっているようにも思えてくる 一体どうしたっていうの 問けない僕は君の目尻と頬にキスの雨を降らせ 君の淋しさは向かい風になって外の雨よりも強く淡く瞼の上に霧を作って僕を抱き止めてしまった 雨の音が急に耳について 無言のまま僕の腕に抱かれている君をぼんやり眺めていた僕は ふっと我に帰って君の吐息を確かめる どんより開いた君の瞳は相変わらずどんより淋しさを湛え 僕にはとっても読み取れない 君と僕の身体は体温をも忘れ雨を含んだ湿った空気に同化されずぶ濡れに河を下って行く