裸足の奈津美が、砂の上に脱いだ白いコンバースへと帰っていく。
ゆらゆらと。まるでそこから躍り出た光のように。
くくり髪の奈津美の背中と、海岸線の小さな家々。
海も空もにび色の景色は、同じ色の風の中で奈津美が笑ったとき、時間が止まって見えた。
奈津美を中心に、自分と海とがぐるりと彼女を抱いていた。
少しだけ走って奈津美に追いつくと、やわらかく固まった砂の上を、手をつないで歩いた。
一度だけ短いキスをした。何も考えずに。満ち足りた気持ちが先立つまま。
・・・海はすごい。晴れても、たとえくもりでも。
並んで座った途端、ウソみたいにぎこちなくなる。何なんですかね、これ。
奈津美がひとり言のように、目に映るものを次々話題にしていく。
「ね、あれ見て。しらすとるのかな?」
「本当だ。しらすかもしれないね。可能性はある。」
「海辺の家って憧れるなー。潮風でやられるっていうけど。」
「うん、潮風だね、やられるとしたら。潮風が問題。」
奈津美の不思議そうな笑みは、下車まで途切れなかった。
電車を降りると、空はまた少し重みを増していた。
知らない家のガレージに、大きなクレマチスが垂れている。
それを指さそうとした手を、不意に早足になった奈津美が、いたずらぽく笑いながら、引く。
「ね、はやく戻ろ。」