まったく、なんで、こぉ、オンナってやつは。
はじめは軽い遊び相手にできたらいいなって思っていたけど、いまは違う。
俺は真剣なんだ。奈津美とは真摯に向き合いたいのだ。
ちょっとした他愛のない会話や彼女の仕草、
やさしくて柔らかで素直な彼女の振る舞いを心と肌で感じている間に、
彼女と過ごす未来と将来をはっきりイメージしてしまったんだ。
彼女の未来に俺の居場所が欲しい。
好きなんて感情はとっくに超えている、つまり惚れてしまったのだ。
天使のように大胆に悪魔のように繊細に。
素直に正直に自分の気持ちを伝えるのだ。
それもいま。
「ちょっと待って!」
「なあに?」
「俺・・・・。」
「どしたのよ〜」
奈津美のまなざしは清教徒の神様のような厳しさと優しさを湛えている。
「関東で梅雨明けだって。」
「ほんと!」
「うん。」
「今年も暑くなるんでしょ。」
「海、行こうよ。」
「えっ、いまから?」
「まさか、今度。」
「今度? 今度っていつ?」
「それまでにちゃんとしてくるから。」
「・・・・・」
「今日はここで。」
「・・・」
「ちゃんとしたいんだ。」
「送ってくれてありがとう。」
「今日はありがとう、すごく楽しかった。」
「焼き鳥、美味しかったね。」
「でしょ、焼き鳥の本買ってさ、勉強したんだ。」
「焼き鳥だけじゃないでしょ。」
「海も勉強してくる。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
「。。。。。」
「先に行って。」
「うん。」
廊下の向こうに歩いていく奈津美の後ろ姿を見つめた。
後ろから見ても素晴らしいシェイプをしている。
ショートパンツから伸びる脚がひときわ輝いて見えた。
ふくらはぎから足首までのバランスがとてもよい。
○○○
抱きしめたかったよ。
抱きしめて、奈津美の体温を肌を感じて、奈津美の匂いに包まれたかったよ。
でも、今日はこれでいいんだ。
あのまま玄関の前まで行ったら。。。
ちゃんと。
ちゃんと奈津美を受け入れられるように自分を整えて、そして自分の気持ちを伝えるんだ。
その時、奈津美が受け入れてくれなかったら、それは仕方ない。
でも、受け入れてもらえるように押しあるのみ。
奈津美の家を出てすぐのところにあるセブンイレブンの前で煙草を吸いながらそこまで考えると、最寄り駅までの道を戻り始めた。
奈津美の家は私鉄沿線にある。新宿で乗り換えて俺の自宅までは電車で一本。
夏を目の前にした夜の風はとても心地よく、しばらくその風を感じていたかった。
明日はどうなるかわからない。
けれどいまはとてもたのしい。
最寄り駅を通り過ぎ、新宿まで歩くことに決めた俺はiPodのイヤフォンを耳にはめた。
ラリー・リーの Don’t Talk を選ぶと、明日へ向かって、自分のペースで足をすすめる。