#6 海までの距離。夏のいろいろ。

来る前が一番楽しいと思ってた。夏って。
来ちゃうとあっけないんだよなぁ。

9月入って、まだ暑くて、あー、海行っとけばよかったみたいな。
    
思うにあれにはちゃんと理由があって、夏って、とらえどころがない。
春とか秋より、ふわっとしてるかも。
  
5月の連休ぐらいに、ガッツリ暑くなって、もう夏か?!はやっ!ってなるでしょ?
それが三日くらい続いて、夏入りを確信した途端、一回冷え込む。
んでじわじわ暑くなりつつ、梅雨入り。晴れと雨取り混ぜつつ、気付いたらどうしようもないほど、夏。

終わりは何となく、8月31日だけどさ。
     
でも今年は心配ないね。もう、夏を見切っちゃってます。

ゆるやかな坂道の縁に続く並木の葉が揺れて、ぬるい風が、シャツの肩に手をかけるように纏わった。

夏の真ん中には、ちょっと遠い風。

「おれもう脱サラして海の家開く勢いだからさ。ばっちりだよ。ドライブしよう。」

適当〜と奈津美は電話口で笑って、じゃあ、メール入れてね、絶対晴れにしてね、と続ける。
任せろよ。もし曇ったら、モーセばりに雲割るから、おれ。
「じゃあ色々決めて、メールしときます。」
切ろうとした途端、奈津美が小さな悲鳴を上げた。
     
「あっ!」
「どうしたの?」
「・・・新しい水着買わなきゃね。」
     
それ、言いますか。

くうー。絶対、電話口で、舌出してる。奈津美。確信。何かもう、見えるもん。

陽は雲から出ているのに、まだそんなに、暑くない。
前のおっさんの半袖シャツと、奈津美の、ビキニの結び目みたいな悪戯な笑顔。

夏にも色々、あるもんだ。