「枝豆みたいな人です。」
「枝豆?」
「佳代子さん、枝豆育てたことあります?」
「自慢じゃないけど、小学校の朝顔も咲いたことない。向かないの。・・・それが海に行く美人とどう関係あるの?」
「枝豆って、本当に、ぐんぐん伸びて行くんですよ。本当、屈託なくって感じで。」
「枝豆農家は儲かってるわけだ。」
佳代子先輩の違う顔が見たくて、あえて無視して、続けてみる。
「どんどん伸びてさやを増やして、太陽に向かって・・・追いかけてたら、あっという間に雲の上ですよ。本当に。」
「そんな人です。」
「ふうん・・・。」
あれれ?
もしかしてちょっと、やきもちですか?その感じ。
何か口数も少なくなっちゃってるし。意地悪、成功?大成功??
佳代子先輩と、渡り合えたりしてる?
これはもう完全に、大人の男に、なったかな。もはやベテランお兄さんではない。
ルーキーおじさんの第一歩を、踏み出したかも。奇しくもここ、銀座で・・・。
とか思ってたら、店出るなり、喋る喋る、佳代子先輩。
きっちりリサーチ、してたんですね。枝豆の話、聞いてなかっただけかも。
でもな〜、一瞬ふくれた気が、したんだけどな〜。気のせいってやつですかね。
に、しても、サマになるもん、銀座を闊歩するサマが・・・
すこし曇りだして、夏の、雨も宵の匂いがした。
オフィスに帰る頃には、もう、一瞬でも佳代子先輩と渡り合ったとか思った自分を恥じたね。
やっぱり、雨ふりというより、高嶺の花・・・
でも、可愛らしいのは本当だよなあ・・・
おしゃれで知的で洗練されてて。面倒見がいいのに、肝っ玉感とかまるでないし。
こういうの、何て言うんだろう。カッコイイ?大人カワイイ?違うよなあ。。。
「ねえ。」
「はい!」
「顔に緊張感がない。」
「適度にリラックスしたほうが、目覚めるんです、クリエーティビティ・・・」
「あ、そう。」
「すみません。嘘です。大人カワイイについて、考えてました。」
「帰宅後に、湯船でどうぞ。」
「はいっ。」
「あのね。」
ひえー。やっぱり、ありえない。大体枝豆にやきもちって・・・
「何でしょう?」
「私ね。枝豆ってきらい。」
白い足首が、コピー機の脇を、ぷりぷりぷりぷり、歩いていった。