#3 すこしずつ、ほんの少しずつ、お互いを探り合いながら親密になっていく

そんなに酔った振りしちゃってさ、お酒強いの知ってるんだぞ、おれ。


確かスピリタスって言うアルコール度数が95度のウォッカをボトルで頼んで、みんなに気前よくご馳走して、翌日財布を見たらすっからかんで焦ったって、電話で言ってたじゃん。


「ガツンとくるんですよ、あれ」とのたまっていた人が、焼鳥屋でラガーを数本飲んだくらいで、あーた、そんなになるなんて、それってスキを見せてくれてるんですよね。


どーするか、ぉぃ。


初デートですよ、今日、送っていく? 自宅まで! それってあり? で、ちょっとお茶でもって展開?


クッキーを与えたネズミは次にミルクを欲しがるんだぞ。いいのか。


まっ、こんなこともあろーかと.03mmは箱で持っていますが、しかしこれは相互確証破壊戦略時代の核兵器みたいなもんで、持っているけど使わないことに意義があるというか。。。


彼女が席を立ったときに会計を済ませ、氷の入ったグラスに水を2杯もらっておいた。


「ちょっと散歩しようか。」
「うん。」


六月の半ば。


例年よりも梅雨入りは遅く、空梅雨と言われている今年の気候はなんだかヘンだ。
夏目前、沖縄では梅雨明け宣言があったのに、夜になると急に風が冷たくなる。


自然と自分の左側を歩く奈津美。


並んで歩くと自分の方が頭一つ分くらい高い。
軽く栗色に染められた艶のあるストレートの髪はブラジャーラインで揃えてある。


さっきまであれほどはしゃいでいた俺たちは急に無口になった。


色が白く、顔には薄くそばかすが見える。肌がきれいな証拠だ。
爪には薄くネイルが施してある。
ピスタチオの殻を上手にむけそうなきれいな指をしている。


「指、きれいだよね。」
「そぉ?」
「うん、ピスタチオを上手にむけそうな感じ。」
「なんですかぁ、それ?」
「えっ、言われたこと無い?」
「そんなこと言われたこと無い。」
「じゃぁ、確かめてみようよ。」
「ぇっ?」
「この先にバーがあるんだ、ピスタチオ、きっとあるよ。」
「うふふ。。。」


EASTEND、バーの看板にはそう記してある。


階段を降り、時の流れを感じる真鍮の取っ手を引いて扉を開けた。先客は自分たちの他には二組。


一人、ボックス席に座っているクリエイターっぽい職業の中年の男性。どうやら常連らしい、ラフロイグを水と同量で割ったやつを頼んでいた。
カウンターの真ん中には女性が二人。やけに背の高いグラスで水色の液体を飲んでいるのと、連れの女性は梅酒のロックだった。


入口に近いカウンターの奥側に席を取った。


彼女はシャブリを炭酸水で割ったやつ、俺はメーカーズマークに氷を入れたダブル、そこにオレンジビターをすこし振ってもらい、チェイサーに氷を入れない水を頼んだ。


「ここ、よく来るの?」
「今日が初めて。」
「・・・・・・」
「待ち合わせ場所を決めたとき、二軒目をどうするか探してみたんだ。」
「・・・・ピスタチオ、頼まないの?」
「食べたい?」
「うーん、とくに。。。」
「でしょ。フルーツ食べる?」
「食べる!」
「いちごをください、あと、バナナのラム酒漬け。」


彼女はスプリッツァーを一口飲むと、グラスの縁越しに自分を見つめて笑顔を見せた。


笑うと口が横に大きく広がる。魅力的な笑顔だ。
自分を見つめる彼女のまなざしには真剣な知性の重みと、いたずらっ子な煌めきが同時に存在している。


「また、一緒に時間を過ごせるといいね。」
「・・・・・・」
「仕事、忙しいんだよね?」
「先週なんて毎日終電。」
「大変だ、息抜きは俺が担当するよ。」
「うふふ。」
「今日はありがと。」
「ここでバイバイする? それとも家まで送ってくれる?」
「家の前まで送っていきたい。」
「うん。」