Time enough for love #4

「満足?」



ベッドの上で体を起こし、枕の形を直すと髪を梳き上目遣いに自分を見る。
夜の帳はまだ開く気配がない、遠くからクルマの走る音だけが聞こえてくる。


「キスの余韻でうごけない。」


言った彼女を抱きしめ、あとはささやく言葉の間を飛んでいた。
いつまでも触れていたい甘い吐息は駆け引きの中で焦らされる。
かわいい顔。見ているだけで愛しさと嫉妬が混ざる。熱い瞬間。


彼女の頭を抱き、肩から腕へかけてそっとなぞると指を絡め手をつなぐ。
月明かりだけで見る彼女の体は白くしっとりしている。
柔らかな曲線が肩から足の先まで続く。


「別れたあと、一度すれ違ったことがあったでしょ。」
「うん。」
「男って別れた後に会うと、未練が顔に出ている人がいるの。」
「未練?」
「この女、最後にもう一発やっておけばよかったって、こと。」
「そう思わせたいんだ。」
「あなたにはそれがなかったわ。」
「悔しいの?」
「別れても好きな人ができるまでは前の男のことが好きなのよ。」
「俺はずっと好きだった。」
「あたしを。。」
「うん。」
「ロス・アンジェルスにいたとき結婚してたの。」
「なんとなく聞いた。」
「そう。」
「それを知ったときは、」
「?」
「全身の力が抜けたよ。」
「今日、会えてよかった。」
「だね。」
「訊かないの?」
「なにを?」
「日本に帰ってきた理由。」
「俺に会いたかったんだろ。」
「あはは。」


彼女は口を開けて笑うと自分の胸に顔をうずめる。


「今日酔ってたの?」
「酔ってないよ。」
「ずいぶん素直になったわ。」
「大人になったんだよ。」
「それに、」
「それに?」
「とても上手になったわ。」


小鳥がするようなキスをすると、彼女はバスタオル一枚でキッチンへ行き冷蔵庫を開けた。
しばらく中を覗くとオレンジジュースのボトルを取り出しグラスへと注ぐ。
半分ほど一気に飲むと自分にグラスを渡した。

「コーヒーまで、まだ時間があるわね。」


彼女はラックを眺めるとCDを一枚取りだしプレイヤーへかけた。
アンドレア・ボチェッリのCon Te Partiroが静かにはじまる。



やさしくて、やわらかい夜が、とてもゆっくりと、過ぎていく。